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どうなる省エネ住宅 ~省エネ基準が義務化されない訳~

どうなる省エネ住宅 ~省エネ基準が義務化されない訳~

これまでの流れ

2014年に閣議決定された【エネルギー基本計画】では、「2020年までに新築住宅・建築物について段階的に省エネルギー基準への適合を義務化する」という方針を掲げて工程表が示され、当時話題になりました。

住宅では、2010年から2011年に国の施策として実施された住宅エコポイント制度で、省エネ基準適合は一気に広がりを見せましたが、2013年には省エネ基準の見直しとして外皮計算と設備性能を評価する一次エネルギー消費量が導入され、少しブレーキを掛けるように省エネ基準適合のハードルは高くなった印象です。

単年度でしたが、2015年に実施された省エネ住宅ポイント制度で、もう一度省エネ住宅は注目を集めました。
その頃既に始まっていたZEH(ネットゼロエネルギー住宅)も2016年には大手ハウスメーカーを中心に消費者向けの広告展開を行い、経済産業省等の施策とも合致し、一気に流行してきました。
その後、2016年に建築物エネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)へと変わるタイミングで、BELS等の表示制度も出来るなど、当社でも何度か講習会を行ったりして、省エネ基準適合義務化への準備を進めてきました。
また、当社では、2017年に義務化となった2000㎡以上の大規模建築物の省エネ基準適合を判定できるように、登録建築物エネルギー消費性能判定機関として登録しております。

個人的には、2020年まで余り時間が残されていない状態で、2019年には中規模建築物(300㎡以上2000㎡未満)への適合義務化が始まり、2020年4月に小規模建築物・住宅(300㎡未満)へと段階的に適合義務化が始まるものだと、考えておりました。

意外な展開へ

しかし、2018年12月3日に国土交通省が開催した社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会の会合で示した「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第二次報告案)」で、小規模建築物・住宅の省エネ基準適合は義務化しないという内容の資料が発表され、同年12月7日から2019年1月5日にパブリックコメント(意見募集)を求める形になりました。

これは2020年の義務化に向けて、数年前から意欲的に取組んできた住宅事業者や設計事務所の方達には衝撃的な発表で、この意見募集では593の個人・団体から902件もの意見数がありました。その中でも小規模住宅に対する省エネ基準への適合を義務化すべきという意見が281件と非常に多く集まりました。

住宅事業者等の声

一部紹介すると
「住まい手である住宅取得者の意見を中心に議論すべきだ」
「一部事業者の後ろ向な意見に議論が偏っている」
「世界で省エネ基準が高くなっていく中で、日本のみが義務化の水準を低くするべきではない」
「省エネ努力が社会的に低評価の状態を放置するのは怠慢」
「義務化見送りこそ短期・長期共に景気を後退させるので、予定通り義務化すべき」
など、積極的な意見が提出されました。
しかし、1月18日の社会資本整備審議会建築分科会の会合で、省エネルギー基準適合義務化対象は、中規模建築物までが妥当とされ、住宅や小規模建築物(延べ床面積300㎡未満)は対象から外れることになりました。

小規模住宅・小規模建築物が対象から外された理由としては、建築士に対して、建築主の意向を把握した上で、
建築主に省エネ基準への適合可否等の説明を義務付ける制度を創設し、建築主の行動変容を促すことが適当と判断されたからです。

義務化見送りの理由

また、義務化を見送る理由として報告書では以下のような理由により、市場の混乱を引き起こすことが強く懸念される為としています。

  1. 小規模建築物・住宅の省エネ基準適合率を約60%とし「適合率が低いままで義務化すると市場の混乱を引き起こす」
  2. 適合の為の追加コストを光熱費の低減により回収すると仮定した場合に22年~30年と長期間で「建築主にとって投資効率が低いと試算」
  3. 生産を担う中小の工務店や設計事務所等が「省エネ基準などに習熟していない者が相当程度存在している」
  4. 新築件数が非常に多いことから「申請者、審査者ともに適合義務化に必要な体制が整わない」

その他、2019年10月に消費税率の引上げが予定されており、同時期にコストアップを伴う規制を導入することで、住宅投資への影響が懸念されるという理由もありました。

今後の展開

義務化しない代わりに国土交通省では、1月28日に第198回通常国会に提出を予定している「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律案」で、「建築士が建築主の意向を確認した上で、省エネ基準への適否等の説明を義務付ける制度を創設する」ことと、「300㎡以上2000㎡未満の中規模建築物を新たに適合義務制度の対象とする」ことを発表しています。

なお、現在分譲戸建て住宅を大量に供給する(年間150戸以上)の住宅事業建築主の住宅トップランナー制度の対象として、注文戸建住宅や賃貸アパートの建築を大量に請け負う住宅事業者を追加するとされています。大量の定義は不明ですがハウスメーカー等を中心に大手が当然のように対応していく中、一般的に考えると建築士が、建築主に対して胸を張って「省エネ基準には適合していません」と説明するのは正直難しいと思いますので、これは事実上の義務化であるとも私は考えております。

「パリ協定」のような地球温暖化を防ぐための国際的な問題など賛否ある中、意欲的に取組んできた住宅事業者や設計事務所の方達には今回の「義務化しない」は改めて住宅の性能をきちんと建築主に説明し、理解してもらえるチャンスとも言えます。

人口減、少子高齢化、空き家問題など新築市場は衰退期に入っている中で省エネ基準だけではなく、耐震性等も含む安全で安心な住宅造りに真摯に取り組んでいる住宅事業者が勝ち残る時代ではないでしょうか。

〔 筆者:ハウスジーメン 技術部長 道下佳紀 〕

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