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住宅瑕疵保険にトラブルが生じた場合の紛争解決手続きについて

住宅瑕疵保険にトラブルが生じた場合の紛争解決手続きについて


特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(以下「住宅瑕疵担保履行法」といいます)では、新築住宅を供給する宅建業者と建設業者に“ 住宅瑕疵保険への加入 ”や“ 供託 ”の方法による資力確保措置を義務付けています。

住宅瑕疵担保履行法というと、資力確保措置の義務付けとその裏付けとなる保険や供託等の制度の部分に目が行きがちですが、この法律では住宅瑕疵保険に加入している住宅(以下「保険付き住宅」といいます)にトラブルが発生した場合の解決のための仕組みが、消費者保護のための柱の一つとして規定されています。

今回は、 紛争解決手続きについて 説明します。

不具合発生時の対応について

引渡しを受けた新築住宅に雨漏れ等の不具合が発生した場合は、住宅取得者から供給事業者へ連絡し、発生している事象を確認のうえ修補を行うことになります。
特定の瑕疵に起因する不具合は、対応費用に応じて被保険者である供給事業者が住宅瑕疵保険の保険金請求手続きを行います。

ただし、これは発生している不具合事象と住宅取得者・供給事業者双方の修補範囲や対応内容に関する認識が合致した場合に限られます。
中には修補範囲や対応内容に双方の合意が得られずトラブルに発展するケースもあり、その時点で保険金の請求手続きを開始しても、対応内容に合意が得られないと、手続きを進めることができません。

トラブルというと、供給事業者が不具合を認めず対応してくれないようなケースを思い浮かべる方が多いですが、供給事業者は不具合を認めているのに、住宅取得者がグレードアップや全面交換のような過剰な修補を要求しているようなケースも少なくありません。

住宅瑕疵保険には、住宅取得者と被保険者である供給事業者との間で修補内容に関してトラブルが発生した場合でも、保険法人が供給事業者に代わって示談を行うサービスはありません
あくまでも対応の内容について供給事業者が住宅取得者に説明して納得してもらう必要がありますが、認識の相違からトラブルとなっているケースでは当事者だけでの解決が難しいことも事実です。

【住宅瑕疵保険における保険金の支払対象について】

  • 住宅瑕疵保険では、直接修補に必要な費用が保険の支払対象となりますが、認められるのは原状回復に要する最低限の費用となります。
  • いわゆるグレードアップや、原因箇所は外壁の一部なのに不具合事象が生じている壁の全面を交換するような、最低限の原状回復を超える費用は認められません

トラブル解決に向けた紛争処理手続きについて

住宅瑕疵担保履行法では、住宅に不具合事象が発生した場合にその解決をめぐり住宅取得者と供給事業者との間にトラブルが発生することを想定して、全国にトラブル解決のための指定紛争処理機関を設置することを規定しています。

そのため、保険付き住宅にトラブルが発生した場合には、住宅取得者と供給事業者のいずれか一方、または双方からの申請により紛争解決手続きを利用することができます。

指定紛争処理機関は全国52か所の弁護士会に置かれている「紛争審査会」が担っています。紛争審査会による紛争解決手続きは*ADRに該当するもので、解決方法としては「あっせん」、「調停」、「仲裁」の方法から申請者が選択することができます。紛争解決手続きの利用には、1万円の手数料が必要となります。

【*ADR(Alternative Dispute Resolution)とは
裁判によらず、民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して解決を図る手続きをいいます。
一般的に裁判よりも、迅速かつ簡便に手続きを利用することができるものです。

■ 解決方法と概要

紛争解決手続きには、弁護士や一級建築士等の専門家が紛争処理委員として関与します。
また、紛争処理委員による法律や建築の専門的な知見を元に公正かつ中立に進められます。
専門的な第三者が手続きに介入することにより、当事者の主観のみによらず、修補内容や対応方法が適切かどうかを法律面や建築面から客観的に判断することができます。

紛争解決手続きは、住宅取得者と供給事業者のどちらからでも申請することができます。
そのため、単に供給事業者が補修を拒否する場合だけでなく、発生している不具合事象に対して過剰な対応の要求を受けている場合や、住宅取得者が不具合事象や瑕疵を確認するための調査を拒否する場合には、供給事業者から紛争解決手続きを申請することができます。

【紛争審査会で取り扱うトラブルとは】
紛争審査会の紛争解決手続きが利用できるトラブルは、住宅に不具合が発生したことに起因するものだけではありません。
建築工事の請負契約や新築住宅購入時の売買契約に関するトラブルを対象としますので、工事内容が当初の約束と違うのではないかという認識の相違から生じるトラブルや建築代金の支払いがされないといったトラブルについても、住宅取得者と供給事業者の双方からの申請により紛争審査会の紛争解決手続きを利用することができます。
※ トラブルが紛争審査会の紛争解決手続きを利用できるものであるかは(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターに設定されている「住まいるダイヤル(0570-016-100)」で確認することができます。

その他 保険付き住宅の利用できるトラブル解決のためのサービスについて

トラブルが発生した場合の紛争解決手続きのほか、保険付き住宅の住宅取得者は、(公社)住宅リフォーム・紛争処理支援センターが運営する「住まいるダイヤル」による電話相談※や、弁護士と建築士に対する専門家相談といったサービスを利用することができます。

※「住まいるダイヤル」では、住宅やリフォームに対する電話相談を広く行っていますが、保険付き住宅は専用のフリーダイヤルを利用することができます。

紛争処理手続きを利用できる住宅瑕疵保険とは

住宅瑕疵保険には、資力確保義務を負う宅建業者や建設業者が加入する『義務保険』と資力確保義務を負わない住宅事業者が加入する『任意保険』がありますが、この紛争処理機関による紛争解決手続きを利用できるのは、前者の保険『義務保険』に限られています

資力確保措置の方法の一つとして住宅瑕疵担保履行法に規定されている義務保険には、トラブルの迅速かつ適切な解決を図るための措置を取ることが消費者保護の観点から望ましいため、紛争処理手続きが同法内に規定されているからなのです。そのため、義務保険の保険料には紛争解決手続きを利用するための負担金が含まれています。一方で任意保険は、あくまでも任意で加入するもので、住宅瑕疵担保履行法に直接規定されている保険ではないため、保険料にその負担を含んでいません。

供託住宅の取扱い等

住宅瑕疵担保履行法の施行日以降に引き渡された新築住宅でも、資力確保措置を供託により行った住宅は、紛争審査会による紛争解決手続きを利用することはできません

ただし、紛争審査会による紛争解決手続きは、保険付き住宅のほか新築時に建設住宅性能評価書が交付されている性能評価付き住宅も利用することができるため、性能評価付き住宅であれば供託住宅でも紛争解決手続きを利用することができます

まとめ

当然、紛争審査会の紛争解決手続きは双方の合意を前提とするため、合意を得られない場合は紛争解決手続きを終了し、裁判等のステップに進むこととなります。裁判には弁護士費用を含めて大きなコストが掛かりますので、まずは紛争審査会の紛争処理手続きを利用するというステップを踏むことも一つの選択肢としてご検討ください。

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