
※1月5日に国土交通省が発表した『通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引事例集』についての項目を追加し、リライトしました。(クリックすると追加した項目に飛びます)
建設業界では、担い手不足・長時間労働・価格競争の激化など、持続性を揺るがす課題が山積してきました。こうした状況を踏まえ、2025年12月12日、改正建設業法が全面施行されました。
今回の法改正は「元請 → 下請」だけでなく、業界全体に影響し、住宅会社・工事業者すべてに大きな実務変更をもたらす内容です。
今回の記事では “特に住宅事業者が押さえるべき”3つの改正ポイントを整理します。
今回の制度の概要
■建設業者に労働者の処遇確保を努力義務化したうえで、国が取り組みの状況を調査・公表
■中央建設業審議会で「労務費の基準」を作成・勧告
■著しく低い労務費等で見積を依頼した発注者は、国土交通大臣が勧告・公表
■著しく低い労務費等で見積を提出した受注者は指導・監督
■総価での原価割れ契約を受注者にも禁止
■資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項として明確化
■受注者から注文者に対して、関連する情報(「おそれ情報」)を必要な情報として通知する義務
■契約前の通知をした受注者は、注文者に請負代金等の変更を協議できる
【生産性向上】
■ICTを活用した現場管理の効率化
■現場技術者の専任義務の合理化
【働き方改革】
■工期ダンピングの対策強化
― 改正建設業法の「3つの禁止」が実務をどう変えるのか ―
① 著しく低い労務費等を前提とした見積依頼・見積提示の禁止
これまで、資材価格の上昇や人件費の高騰があっても、実態に合わない“安い見積”が現場に流通していました。改正後は以下が明確に禁止されました。

・労務費・材料費を適切に積算しない見積依頼
・内訳を明示しない「一式見積」への依存
・不当に低い労務費での見積提示
元請 → 下請だけでなく
下請 → 下請、施主 → 元請 など すべての階層で適正価格が求められます。

② 原価を下回る受発注(=原価割れ契約)の禁止
「利益がほぼ出ない」「人件費に回らない」という“安値受注”の構造を断ち切るため、受注者側にも原価割れ契約の禁止が適用されました。

・施工原価を割った契約は違法
・“取れればいい”式の安値応札ができなくなる
・適正利益を確保した見積が必要

③ 工期ダンピング(異常に短い工期)の禁止
長時間労働や施工不良の原因となる「過密な工期指定」が禁止されました。
今回の改正の特徴は、発注者だけでなく“受注者も”非現実的な工期を受け入れてはならないこと。

・元請の指示が短すぎる場合は協議が必須
・過密工程をそのまま飲み込むと法的リスク
・国交省が“工期の基準”を策定予定

国交省が示す「適正な労務費を下回るおそれのある取引6類型」
改正建設業法の趣旨を踏まえ、国土交通省は建設取引において適正な労務費が確保されないおそれのある取引について、代表的な6つの類型を整理し、1月5日に公表しました。本項では、その資料の中から実務で特に起こりやすい事例を抜粋し、留意点と共にわかりやすく整理しています。 ※詳細:国土交通省 通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引事例集
◆ 類型①:単価を見直さない・据え置き
事例 以前に決めた労務単価をそのまま使い続け、
物価や人件費の変化を踏まえた話し合いが行われないまま、
見積が作成・提出されている
実務での留意点
- 毎年の労務単価動向を踏まえ、定期的な協議・更新を行うこと
- 見積時には最新の労務単価と比較し、適正な費用計上を行う
◆ 類型②:一律一定比率等の減額
事例 適正な労務費をもとに作成された見積に対して、
明確な理由や根拠がないまま、一定の割合で減額を求め、
実際の施工に必要な労務費を反映しない見積のやり取りが行われている
実務での留意点
- 値引きを行う場合でも、労務費を削るのではなく、受注者が確保している利益の範囲内で調整することが求められ、労務費を下回らない理由を明確にすることが必要
- 単純な割引よりも見積積算の合理性・根拠を説明できる体制をつくる
◆ 類型③:予算額を前提とした指値
事例 あらかじめ決められた工事予算に見積額を合わせるため、
その金額から逆算して労務費を調整し、
本来必要な労務費が十分に確保されていない見積が作成されている
実務での留意点
- まずは 労務費を含めた見積りを徴収し、必要な予算を確保すること
- 予算内に収める際は、仕様・工事範囲の調整等で対応する
◆ 類型④:相見積等を基にした指値
事例 複数社から見積を取得したうえで、
最も安い見積額を基準とし、
他の業者にもその金額に合わせるよう見積りの修正を求めることで、
適正な労務費が反映されない見積りとなっている
実務での留意点
- 相見積そのものは否定されないものの、価格だけで決定せず、労務費の妥当性を評価基準にすることが重要
◆ 類型⑤:取引関係維持等を意図した減額
事例 長年の取引関係を続けることを理由に、
十分な説明や根拠がないまま労務費を引き下げ、
本来必要な水準を下回る見積がやり取りされている
実務での留意点
- 受注者の利益相当分を犠牲にしないようにし、労務費は適正に確保したうえで交渉する
◆ 類型⑥:工事条件を考慮しない価格設定
事例 工事内容や条件によって変わるはずの労務費について、
工事の難易度や状況を考慮せず、
すべての工事で同じ基準(歩掛)を使い続けることで、
実態に合わない見積りとなっている
実務での留意点
- 工事条件に応じた歩掛の再設定を行い、現場事情を反映させた積算を行う
- 過去の実績や職種ごとの基準値と照合し、歩掛の合理性と根拠を説明可能にする
上記の類型は、値引きや予算調整を行う際に、本来確保すべき労務費が削減対象となってしまう見積や変更契約について整理したもので、具体的な不適正取引を分かりやすく示しています。前項で解説した3つの禁止事項と合わせ、これら類型を参考にすれば、実務上どのような取引が適正な労務費確保から外れるのかを理解できます。
住宅事業者が今すぐ着手すべき5つの実務対応

① 見積体系の刷新(労務費・材料費を明確化)
「外注一式」ではなく、職種ごとの労務費・材料費を明確化

② 原価割れチェックシートの導入
利益率の基準値(例:粗利25〜30%)を設定し、逸脱時は社内アラート

③ 工期の妥当性チェック
標準工期表を社内で作成し、“過密工程”を契約前に調整

④ 契約書テンプレートの改訂
・工期調整条項
・物価変動条項
・労務費・材料費の内訳開示
これらを反映

⑤ 施主向け説明資料の整備
「なぜこの価格なのか」「なぜこの工期なのか」を説明できる体制が信頼につながる
まとめ
今回の法改正は、単なる規制強化ではなく、“安さ競争からの脱却”と“適正施工の時代” を業界全体に強制的に促すターニングポイントです。
工期・見積・利益の透明性を高める会社が、信用を獲得し、実際に工事を行う職人や施主から選ばれる会社になるのではないのでしょうか。
今回の全面施行は、住宅事業者にとって “経営基盤をあらためて整える絶好のタイミング” といえます。


